2.各校における実践授業

 

  実証実験は、表10にあるような授業スタイルおよび対象地で実施した。また、各項における実証実験のスケジュールは、表11のとおりである。以下、各校ごとに報告を行う。

 

10 実証実験実施校の対象地およびコンピュータ環境

11  実証実験のスケジュール

 

 

1)筑波大附属高等学校

  東京都文京区にある国立の高校である。ここでは、クラブ単位で学校周辺を対象に実験を実施した。ただし、学校にコンピュータルームがないため、パソコン2台とプリンタを地図センターが用意して実験を行った。そのため、パソコンのメモリやHDといった実施環境は最高であった。

写真7 実験風景 写真8 実験風景

 

  実験対象は、学校所在地の文京区護国寺周辺を昭和初期からの2万5千分1地形図を用意した。生徒の関心は非常に高かった。学校周辺は昭和初期の段階ですでに開発が行われており、大きな変化は学校周辺が兵器庫であったことぐらいで、非常に変化が少ない地域であった。基本的な変化として、兵器庫のあった場所が国立大学や附属高校となっている程度で、学校周辺は昭和初期から建物が多く建てられていた。学校近くに護国寺があることから、すでに門前町として明治時代より人が多く集まっていたことが予想できた。しかし、地図データだけでは、なぜ変化が少ないかを解き明かす資料に不足していた。

 

 

2)目黒区立第一中学校

  東京都目黒区にある公立中学校である。ここでは、中学3年生の選択授業で、およそ20名を対象に実施した。ちなみに男女比率は、ほぼ半々である。コンピュータルームには40台のパソコンがあるが、やや古い機種で操作後のレスポンスに難点がある。授業での利用は一部教科に限られている。しかし、この選択授業の時間では、2学期まではトレーディングを行うシミュレーションゲームをして、実際の経済の動きを体験させる授業を行っていたこともあり、生徒全員のパソコンスキルは高い。

 

12  指導計画

メインテーマ

サブテーマ

学習内容

SchoolGIS内容

SchoolGISの基本操作

基本操作の確認

GISで何ができるか

操作全体

GISの利点

GISの特徴を理解する

計測など

新旧地図の比較

地域の変化

何に変わったか

ユーザデータ登録

土地利用の変化

どのように変わったか

土地利用図の作成

空間移動とGIS

自分の行動

到達地点をプロット

ユーザデータ登録

経路と空間距離

移動距離の空間認識

線の作図

 

 

写真9 コンピュータルーム 写真10 パソコン環境

 

  今回は、学校周辺である目黒区東部を対象として、昭和初期からの2万5千分1地形図を用意した。学校周辺の都市開発の様子や目黒川の河川工事の推移が時代を追って見ることができる。特に学校の場所は、戦前は軍関係の施設が数多くあった場所であり、そこに戦後になって学校が多く建てられたことがよくわかる。生徒のコンピュータ能力も高く、地図を経年的に見られることで非常に興味深そうにしていた。そして、この地域の土地利用的変化を捉えるために、地域変化に注目して生徒各自が操作を行った。

  本報告書を作成するまでに終えた指導計画が表12である。実験を行った3学期は、高校入試と重なるため授業が行われないことがあり、2月中旬までに3回しか授業が行われなかった。

  今後は、移動教室が長野県の清里で行われることから、事前事後学習のために清里地域周辺でも実証実験を行う予定である。

  さらに、最終日に授業を受けた生徒たちにアンケートを実施した。

 

                     13  SchoolGISを使ってみてどうか?

 

熟練者

初心者

合 計

面白い

6

1

7

ふつう

2

10

12

つまらない

1

0

1

 

  まず、表13のように、SchoolGISを使ってみて楽しかったかを質問したところ、コンピュータの熟練者と初心者で違いが生じた。まず、熟練者では、面白いという意見が多く、初心者ではふつうという意見が多くなった。これは、やはり当ソフトの操作にコンピュータの知識が必要なことから、コンピュータ操作の習熟度がソフトの感想に直接つながったと考えられる。

 

                     14  使いやすさはどうか?

 

熟練者

初心者

合 計

わかりやすい

2

1

3

ふつう

6

6

12

むずかしい

1

4

5

 

  次に表14のように使いやすさについて聞いたところ、熟練者および初心者とも普通という意見が多かった。ソフト開発にあたっては、極力わかりやすく作成したつもりであるが、残念ながらむずかしいと感じる生徒が多くなってしまった。次回のソフト修正に活かしていきたい。

 

                     15  SchoolGISをまた使ってみたいか?

 

熟練者

初心者

合 計

使ってみたい

8

1

9

使いたくない

5

6

11

 

  さらに表15のように、SchoolGISをまた使ってみたいかという質問をしたところ、熟練度は使ってみたいがやや上回った。しかし、初心者は使いたくないが多い結果となった。

  また、自由回答欄で感想を聞いたところ、地図ということで画面に目を凝らしてみているためか、目がチカチカするという意見を挙げた生徒が2名いた。これは、SchoolGISの問題にとどまらず、コンピュータ教育を行う上で解決策や予防策などを具体的に指針化する必要があると思われる。

  これらの結果を踏まえて、今後は操作性の改良は当然として、SchoolGISを使う授業内容と目的意識をはっきりと生徒に浸透させて、SchoolGISを利用する必要性を認知させていく必要がある。

 

 

3)立命館慶祥中学校・高等学校

  北海道江別市にある私立の中高一貫教育学校である。中学校と高校の校舎はつながっている。学校全体として情報教育への取り組みも熱心であり、中学校1年生の入学時から情報教育をはじめており、高校生となるとパソコン操作に問題はなくなる。また、Media Centerにも充分にパソコンが導入されており、生徒は授業の課題等で自由に利用できる。生徒個々のIDでログインすることにより、学校内のデータサーバーセンターの生徒個人ごとの保存ディレクトリに接続でき、それぞれ約100MB程度の領域を持っている。このように、パソコンが通常の教育に溶け込んでいる学校である。

  ここでは、中学校1年と高校3年の2回にわたって授業が行われた。しかし、本校のパソコンは、電源終了時にハードディスクへの書き込みが消去されてしまうため、作業の保存が難しいという問題が生じた。

 

a)中学校

  まず、中学校1年の授業において、学校近くの札幌市中心部を対象に屯田兵開発や市街地の拡大をテーマとして、授業が行われた。この指導計画および授業案はこちらである。ここでは、中学校入学と同時にコンピュータを利用したさまざまな教育が進められているため、生徒の習熟度は高い。

写真11 コンピュータルーム 写真12 パソコン環境

 

  先生が生徒用にマニュアルを作成し、これに従って操作を行った。また、生徒のコンピュータ能力も高く、各生徒のコンピュータ操作は十分であったが、地図から読み取って考える能力においては、中学校1年レベルでは難しく、やや操作に追われた感があった。しかし、時系列で札幌市の市街地の拡大を見ることができるため、生徒の地域への興味は非常に深まったといえる。

 

b)高等学校

  一貫教育であるため、高校生になるとコンピュータ操作に不慣れな生徒はいなくなる。高校3年生においても、同様に札幌市中心部を対象に屯田兵開発や市街地の拡大をテーマとして、授業が行われた。この指導計画および授業案が こちらである。中学校と同様に、先生が生徒用にマニュアルを作成し、これに従って操作を行った。

  市街地の変化のほか、自宅周辺で土地利用変化を見るなど、積極的な利用が目立った。また、GISとワープロソフトを組み合わせて、地域変化のレポートを作成するなど、非常に意欲的でもあった。例えば、流通センターの変化を昭和10年から現在まで検討し考察したレポートや地下鉄福住駅周辺の土地開発を着目して考察したレポートなどSchoolGISが活用されたことは、これらのレポートからも明らかである。

 

 

4)福島成蹊女子高校

  福島県福島市にある私立の女子高校である。コンピュータルームは2室あり、情報教育のほかにも授業でよく利用されている。ここでは、選択授業での実験を行った。対象地は学校周辺の福島市近辺であり、城下町起源の都市化の様子が地図から把握できる。

写真13 コンピュータルーム 写真14 パソコン環境

 

  しかし、実証実験の開始が3学期始まってからであり、本報告書をまとめる段階においては、実験途中のため充分な成果をまとめるまでには至らなかった。

 

 

5)慶応義塾 普通部

  神奈川県横浜市にある私立の男子中学校である。小学校(幼稚舎)から大学までの一貫教育も行われている。コンピュータ環境については、昨年、校舎が改築になったこともあり、図書室に生徒が自由に利用できるパソコンが設置されている。また、オープンスペース部分にもパソコン、プリンタ、スキャナーがセットされたパソコンがあり、生徒は自由に利用することができる。

  ここでは、クラブ単位で実施を行った。学校周辺は、戦前には鉄道が開通していただけでほとんど開発が行われてなかった。しかし、徐々に開発が進んで、現在のような大学を含めた学校中心の町並みになっていったことがわかる。

  既存の地図教育と異なって、オープンスペースで生徒が自由に利用できたことも、生徒各自の意欲を生む結果であったことが大きかったといえる。

 

 

6)松山東雲高等学校

  愛媛県松山市にある私立の女子高校である。コンピュータルームは5室あるが、そのうちの1室が実証実験を行った先生の管理であることから、比較的自由に授業での利用が可能であった。高校3年生の選択授業で実験を行った。対象地は松山市周辺であり、松山城を中心とした都市化が地図から判読できる。

写真15 授業風景 写真16 授業風景

 

  本校での実験は3時間行った。そのうちの最後の時間の指導案はこちらである。ソフトの使用方法の説明、従来の授業とGISの両方を利用した松山の時間変化の把握、さらに考察の時間という構成であった。

  松山城を中心に市街地の発展や路面電車の経路の変化などの都市化を中心に扱った。生徒からは、新旧の地図を簡単に比較することができるため、とても面白かったという感想が多かった。また、改めて自分の住む場所を見直したという感想もあった。

  また、ユーザデータの登録をし、さらにインターネット上から画像を検索したり、リンクを貼るなど、インターネットを活用した実験も行われた。さらに、新旧の土地利用を比較することでレポートを作成する生徒もおり、本プロジェクトに興味深く取り組んでいることがわかる。

  しかし、ここのパソコンでは、土地利用の塗りつぶしができないバグが発見された。実証実験中には対応ができなかったため、土地利用の変化については、十分な成果を得ることができなかった。

 

 

7)玉川聖学院

  私立の中高一貫の女子高である。現在、校舎が改築中であり、コンピュータルームは仮設の教室を変更して利用している。したがって、コンピュータ台数も充分とはいえない。しかし、学校方針として、図書室には生徒が自由に利用できるノートパソコンがあり、資料を調べながらのレポート作成のほか、無線LANを利用してインターネット接続も可能となっているなど、情報教育に関する教育環境は優れている。授業は、高校3年生の選択授業で実験を行った。対象地は学校周辺の世田谷区自由が丘から等々力にかけてであり、都市化による地形変化にも考察を進めている。

写真17  コンピュータルーム  写真18  図書室

 

  本校での実験は、3学期に入ってからであり、入学試験との関係もあり、十分な授業回数がまだ行われていない。

 

 

8)ノートルダム女学院

  私立の中高一貫の女子高である。コンピュータルームは、学校に1室限りであり、中学と高校の共用である。したがって中学生が授業で利用することは少なく、今回の実験対象であった中学1年生は、入学後初めてコンピュータルームでの授業であったため、非常に興奮状態であった。対象地域は、北九州工業地帯の開発について取り上げて、事前に既存のプリントによる新旧地形図を利用した授業を行い、次の時間でGISを利用した意義について体験させるスタイルであった。

写真19 コンピュータルーム 写真20 コンピュータ環境

 

  この時間の指導案はこちらである。GISを利用することで、製鉄所が増えたことによる埋立地の増加を海岸線の変化を元に実感させて、さらに現在から過去までの土地利用について、プリントに記入させる授業となっている。生徒は地図が自由に表示できることに非常に驚いており、さらにコンピュータを利用したことで満足感が高かったようである。この感想については、表16のとおりである。

 

16  授業の感想

肯定的感想

自分で見たいところなどを拡大したりするのは、面白かったです。場所もよくわかってよかったです。また、こういうものがあるなら、ぜひやってみたいです。

今回の授業はパソコンで調べたので、とてもわかりやすかった。(自分がパソコンの仕方を知っていたので)今度の授業もパソコンを使った授業をやりたい。

とっても面白かった。またやってみたい。地図でも歴史があるということを感じた。こんなソフトがあると授業が楽しくなると思う。

このソフトはすごいと思うし、よくできていると思う。こういうソフトは社会の授業でとっても役に立つし、よくわかると思う。操作も簡単でコンピュータが不得意という人でも作業ができるのでよいと思う。

否定的感想

自分がどこへいっているのかわからなくなった。少し難しい。

私はコンピュータが苦手なので、もう少し練習したい。

難しい。一回見ただけじゃ私の頭には入りきらない。もうちょっと時間がほしかった。

目がチカチカした。

 

  このGISを利用した教育、もしくはコンピュータを利用した教育についての感想は、表16のように大きく肯定的感想と否定的感想の2つに分けられる。まず、肯定的な感想については、大前提としてコンピュータの操作がそれなりに行えた生徒である。自分である程度自由に操作できることで、自分の要求に応じて調べることで、授業が面白かったという意見である。一方、否定的な感想としては、まずコンピュータ操作に慣れていない生徒の意見がほとんどである。先生が操作を説明してもついていけなかったり、画面を見慣れていなかったことが原因と考えられる。

  これらの意見を総合すると、肯定的感想については、このSchool GISの意義を十分に理解してくれて、地図上での時系列変化という切り口に非常に興味を持っている。しかし、コンピュータ操作に慣れていない生徒は、GISの感想の前に、まず自分がうまく操作できなかったという高いハードルがある。ただし、この問題は、本プロジェクトの問題ではなく、今後コンピュータを教育にどのように取り込んでいくかというコンピュータ教育の根本的な問題である。したがって、本プロジェクトに限らず、徐々に教育現場に取り込んでいくという機会を増やすことが重要であると考えられ、本プロジェクトは、その意味でも非常に効果があったということができる。

 

 

         


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