(2) 航海用海図

  海図の記載内容
  航海用海図はその名のとおり、船舶が航海をするときに使用する海図で、海岸線、低潮線、水深、底質(泥、砂、岩など)、航路標識(灯台、ブイなど)、陸上の著目標(タワー、煙突、橋など)、コンパス図、領海の基線・限界線等が「海図図式」に基づいて記載されています。(日本近海の海図の索引図については日本水路協会のホームページ中の「日本近海海図索引図」のPDFファイル、海図の図式例については「海図の記号を覚えて、海を知ろう!」のPDFファイル、領海の基線の詳細については海上保安庁海洋情報部の管轄海域情報(日本の領海)のページへどうぞ。)

  水深の基準面
  航海用海図の水深値は、船舶の安全のために、海面がこれ以上下がらない面(最低水面)からの深さで表示されます。 海岸線は、海面がもっとも上った時の陸と海の境界線で、低潮線は、海面がもっとも下った時の陸と海の境界線です。低潮線は領海の幅を測定する際の“領海の通常の基線”にもなります。(最低水面の詳細については海洋情報部のホームページ中の平均水面、最高水面及び最低水面一覧表のページへどうぞ。)

  W海図とJP海図
  航海用海図は、通常、海図番号の頭に“W”または“JP”という文字が付いています。Wの付いた海図(W海図)は海図の表題や説明などが日本語と英語のバイリンガル形式で記載されています。しかし、外国人船員による海図の使い勝手を良くして事故などの削減を進めるために、外国船の通航の多い海域について2004年から英語だけを記載するとともに航法に関する関係法令等の情報を盛り込んだ“英語版”の海図が刊行されました。この英語版海図には海図番号の頭に“JP”という文字が付いています。

  2006年7月からは、これらの英語版海図の販売網がそれまでの日本水路協会の販売網だけでなく英国海洋情報部の海図販売網まで広げられ、日本の海図は世界中の主な港で入手できるようになりました。この新たな英語版海図(JP海図)には日本海上保安庁の紋章と英国海洋情報部の紋章の両方が印刷されており、“デュアルバッジ海図”と呼ばれることもあります。(英語版海図の詳細については、海上保安庁のHP中の広報資料 わが国の海図が世界中で入手できます! をご覧下さい。)

  地図投影法
  航海用海図は、通常、メルカトル図法で作成されます。メルカトル図法は正角円筒図法とも呼ばれるとおり、海図上の出発地点から目的地点までを直線で結んだときに読みとれる経線と直線との交角がそのまま船の針路の方位角として使えます。このため、メルカトル図法は航海者にとって非常に便利な地図投影法なのです。(メルカトル図法については、Atlas Studyの「世界地図を作ろう」のHP中のメルカトル図法の解説を、また、さまざまな地図投影法については、地図投影法カタログをご覧下さい。))

  海図のアップデート
  海と陸の状況は日時とともに少しずつ変わっていきます。例えば、新しく橋や灯台ができたり、防波堤が沖合まで延長されたり、魚礁が設置されたりと様々な変化が生じます。このような場合、海図の内容もそのように修正する必要があります。このため、海洋情報部のHPには、海図の記載内容の修正情報(文章または補正図)と、海上における工事作業や海上浮遊物(木材、コンテナなど)の一時的な情報が「水路通報」として載せられています。これらの情報のうち、海図の記載内容の修正情報を掲載した水路通報は冊子の形でも発行されています。航海用海図の使用者はこれらの情報をもとに海図を常に最新の状態に修正して使用しています。なお、補正図は海洋情報部のHPからダウンロードして印刷するか、または冊子の水路通報に添付されている補正図を切り取って海図に張り付けて使用します。(水路通報の詳細については、海洋情報部のHP中の船舶交通安全情報のページへどうぞ。)

  海図の測地系
  我が国の航海用海図は、これまで“日本測地系”に基づく経緯度グリッドを使用して作成されていましたが、水路業務法が改正され、2002年4月から世界測地系の一つでありGPSの測地系でもある“WGS-84”に基づく経緯度グリッドを使用した世界測地系海図になりました。

  国際海図
  航海用海図の中には国際水路機関(IHO)の“国際海図仕様”に則って作製された国際海図(INT chart)もあります。国際海図は各担当国が分担刊行しているもので、縮尺1/1000万シリーズおよび1/350万シリーズの小縮尺海図シリーズと、より大縮尺で沿岸航行・国際貿易港への入出港に適した中・大縮尺シリーズがあります。国際海図は発行国で付与した海図番号と世界共通の国際番号(マゼンタ:赤紫色)が印刷されています。我が国は、日本近海の国際海図の作製を担当しています。

  漁業用海図
  漁業用海図は、1999年に締結された新しい“日韓漁業協定”及び2000年に締結された“日中漁業協定”の暫定水域の境界線等を加刷したもので、日本・中国・韓国の漁業者に便利な海図です。海図番号の頭に“FW”が付いています。

  電子海図
  近年はディスプレー上に海図情報を表示させることのできる電子海図表示装置(ECDIS)も使用されています。この装置に電子海図(ENC)とよばれる海図データを読み込ませ、更に、GPSなどの衛星測位システムの位置情報を付け加えることにより、常に自船の位置を中心とした海図情報がディスプレーに表示できます。また、航海用電子海図の内容を最新の情報に維持するために電子水路通報も発行されています。

  電子海図データは「セル」(ある大きさの緯度、経度の区域毎に作成されたファイル)で提供されています。このため、希望する海域の必要なデータだけを購入することができます。これらのデータを利用するためには日本水路協会と利用契約を結ぶ必要があります(ライセンス制)。これによって電子水路通報を毎週、日本水路協会のホームページからダウンロードできます。 なお、ENCデータの内容が不正に書き換えられることを防止するために、ENCと電子水路通報は暗号化されています。 (航海用電子海図の詳細については、海洋情報部のHPの航海用電子海図の構成のページへ、また、入手方法等については日本水路協会のHPの航海用電子海図(ENC)のページへどうぞ。)

  廃版海図・旧版海図
  廃版になった古い海図は航海には使用できません。しかし、これらは歴史的資料としての価値があり、海洋情報部では“旧版海図”と呼んでいます。旧版海図は昔の港の状況を見たり、港の変遷を調べたりする場合に役に立ちます。(旧版海図の例については、第五管区海上保安本部のホームページ中の旧版海図のページまたは、第七管区海上保安本部のホームページ中のレトロ海図のページへどうぞ。)
明治5年(1872)に発行された日本人のみの手による第一号海図の複製物については、日本水路協会のHPの陸中國釜石港之圖のページへどうぞ。

(2015年4月30日更新)


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