人間が航海をするようになったのは、はるか紀元前の時代からだとされていますが、海図といって良いような内容を持った地図が出現したのは、中国で発明されたとされる羅針盤が使われるようになった13世紀ころからです。このころから、ヨーロッパの港湾誌(ポルトラノ)の付図として航海用の地図が添付されるようになりました。このポルトラノ型海図ともよばれる地図には水深は記入されておらず、海岸線・沿岸地名・32方位の線が多数記入されています。
海図に水深が記載されるようになったのはマゼランの世界一周を始めとする"大航海時代"が始まる16世紀頃からです。1504年に発行されたポルトガルのラ・コーサ作製の海図には水深が記入されていたそうです。そして海図が急速に進歩したのは、1569年にオランダのメルカトルが航海での使用に便利な正角円筒図法(メルカトル図法)による世界図を作ってからだといわれています。
日本近海の海図で水深が記入されるようになったのは、慶安3年(1650年)に当時唯一日本と交易が認められていたオランダで発行されたシェンク(Sahenk)作製の海図だとされています。この海図には、伊豆諸島から本州東方、北海道から樺太東方にかけて一列に約50点の水深が記入されています。
フランスは1720年に世界で最も早く水路部を設置し、現在のような航海用海図を計画的に整備しはじめました。その後、デンマークが1784年に、英国が1795年に、スペインが1800年に、ポルトガルが1849年それぞれ水路部を設立していきました。日本が水路部を設立したのは1871年ですから、世界的に見るとかなり遅い方かもしれません。オランダでは1874年に水路部が発足しました。
1921年には、各国が作製している海図等の表現方法を改良・統一し、全世界の航海の安全を促進することを目的として、"国際水路機関(IHO)"が設立されました。現在IHOには76ヶ国が加盟しており、水路図誌や水路測量に関する多様な活動が行われています。
1995年に日本水路部は、世界で初めて、IHOの定めた国際基準(DX-90)に基づいた航海用電子海図(ENC:Electronic Navigational Chart)をCD-ROMの形で発行しました。そして1998年からは同じ基準による電子水路通報も発行しています。その後、シンガポールも国際基準に基づいた航海用電子海図を発行しており、近い内にさらに多数の国から航海用電子海図が発行される予定になっています。(すでに英国や米国でも電子海図を多数発行していますが、これらはIHOの定めた国際規格に基づいたものではありません。)
(国際的な海洋調査と海図作製の歴史については、海洋情報研究センターのHP中の海洋調査の歴史(国際編)のページへどうぞ。)
国際水路機関(IHO:International Hydrographic Organization)は、"各国の海図等の水路図誌を改良することによって、全世界の航海の安全を促進すること"を目的として、1921年に設立されました。そして1967年には、"国際水路機関条約"が採択されて、政府間の条約機関として明確に位置づけられました。国際水路機関の事務局は地中海に面したモナコ公国にあり、2005年現在、76ヶ国が正式な加盟国として登録されています。
5年に一回、加盟国の代表によって構成される"国際水路会議"が開催され、水路図誌の改良に関するさまざまな意見・情報の交換と決議の採択がおこなわれます。また、専門家からなる各種委員会が組織されており、海図の編集に関する仕様、電子海図の技術的な仕様、国際海図に関する仕様等を採択して、これらの国際的な統一を図っています。また、毎月1回"International Hydrographic Bulletin"(国際水路要報)を発行して水路図誌および水路測量に関する各国のニュースや国際的な動きを速報しています。さらに、毎年2回"International Hydrographic Review"(国際水路評論)を発行し、水路図誌および水路測量に関する各種の論文を紹介しています。
国際水路機関が運営している多数の委員会の中には地域委員会も組織されており、日本の水路部は"東アジア水路委員会(EAHC:East Asia Hydrographic Commission)" (参加国:中国、インドネシア、日本、韓国、マレイシア、フィリピン、シンガポール及びタイの8ヶ国)の常設事務局を担当するとともに、東アジア域内の水路図誌と水路測量に関するニュースを掲載した"EAHCニュースレター"を毎年2回発行しています。
詳細については海洋情報部の国際業務(英文)のHPへどうぞ)
(国際水路機関の詳細については国際水路機関(IHO)のHPへどうぞ)
ユネスコ・政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC:Intergovernmental Oceanographic Commission)は、"加盟国の共同活動を通じて海洋の性質および資源に関する知識を増進するために科学的調査を促進すること"を目的として、1960年に設置されました。
IOCが推進している主なプロエクトとしては、世界海洋データセンターや各国の海洋データセンターを通して行われている海洋データの国際的な交換システム(IODEシステム)や、西太平洋海域の共同海洋調査(WESTPAC)等があります。また、IHOとの共同プロジェクトである大洋水深総図(GEBCO)も推進しています。
上記のIHOとIOCの共同プロジェクトである大洋水深総図(GEBCO)は、ゲブコまたはジェブコと呼ばれており、全世界を縮尺1/1000万の海底地形図18枚で整備しているものです。
GEBCOの歴史は古く、その第1版は1903年に完成しています。現在は、1983年に完成した第5版が最新のものです。GEBCO第5版では海底地形
が50m、100m、200m、500m、1000m、1000m以深は500m毎の等深線で表現されており、世界規模の海底地形図としては最も詳しいものといわれています。
1994年からは、英国海洋データセンター(BODC)からこれらの等深線のディジタルデータを収録した“GEBCOディジタルアトラス(GDA)”がCD-ROMの形で発行され、現在は、その第2版に相当するGEBCO-97が発行されています。(英国海洋データセンターのGEBCOディジタルアトラスのHPへ)
(英国水路部のHPへ)
海洋大気庁(NOAA)の海洋業務局(NOS)に属する沿岸測量部(OCS)はそのルートを1807年に遡る海図作製機関で、米国の管轄海域(五大湖と航海可能な河川を含む)の航海用海図約980版を発行しています。
一方、国防省の国家地理空間情報庁(NGA・・・2004年以前は国家画像地図庁(NIMA))はそのルートを1830年に遡る海図作製機関で、米国の管轄海域以外の全世界の海図約3,600版を発行していましたが、現在は一般向けには海図を発行していません。
(カナダ水路部のHPへ)
(ドイツ水路部のHPへ)
(中国海事局のHPへ)
(韓国国立海洋調査院のHPへ)
(2009年 7月26日更新)